子育て 0〜2歳 3〜6歳 小学1〜3年 小学4〜6年

【第3回】発達の専門家に聞く! 大事な子どもの気持ちの話

この連載では、地域で子どもの居場所づくりや相談活動を行う専門家が、子育ての悩みや毎日の生活の中で「知っておくと安心できること」「今だからこそ大切にしてほしいこと」などを分かりやすくお届けします。

今回は、「うちの子このままで大丈夫?」と揺れる親心に寄り添い、他者と比べる子育てから、目の前の子ども自身の成長を尊重して、見守る子育てへシフトするためのヒントをお届けします。
毎日悩みながら子育てをしているママ・パパの心が、少しでも軽くなることを願っています。

一般社団法人Ponteとやま 理事長 水野 カオル

1964年生まれ。Ponteとやま代表理事。公認心理師・臨床発達心理士。金沢大学卒業後、21年間公立学校教諭(ろう学校・養護学校・小学校)として勤務。その後、富山大学学生支援センターアクセシビリティコミュニケーション支援室コーディネーター、富山県立大学・高岡法科大学相談員(非常勤)を歴任。2014年より現職。県立高校スクールカウンセラー、射水市こども発達相談室相談員(非常勤)。
長年の教育現場とカウンセリングの経験から、不登校や行きしぶりに悩む子どもたちとその家族に寄り添い、多様な学びの場を提供する活動を行っている。

「このままで大丈夫」と思えないとき
~比べる子育てから、子ども自身を見つめる子育てへ

学校生活が始まると、なんとなく気持ちが落ち着かなくなるママ・パパは少なくありません。
朝はなかなか起きてこない。宿題をしない。ゲームや動画を見る時間が増え、声をかけても返事だけ。「こんな生活で大丈夫?」「学校の準備をさせなくちゃ」と、日に日に焦りが強くなっていくばかり。

長期休みには、親戚や友人の家族と会う機会もあったことでしょう。「〇〇ちゃんは、もう一人で何でもできるんだって」「同じ年なのに、あの子はしっかりしているなあ」。そしてSNSを見れば、家族旅行、キャンプ、スポーツ大会など、他の家族の充実した様子が次々と目に入ってきます。
それに比べて、わが家は……。
気づけば、できることが増えた誰かの子どもと、目の前のわが子を比べてしまう。
そして、「うちの子はこのままで大丈夫だろうか」「もっといろいろな経験をさせるべきだった?」「私の育て方がよくなかったのかな」と、不安になってしまいます。

「子ども同士を比べてはいけない」と頭ではわかっていても、比較をまったくしないで子育てをするのは難しいものです。母子手帳にも発達の目安が書かれていますし、園や学校では同じ年齢の子どもたちが同じ場所で生活しています。周囲との違いが目に入るのは当然です。
それに、親が子どもの将来を心配するのは、その子を大切に思っているからです。

「この子が将来、困らないように」「みんなの中でつらい思いをしないように」「一人でも生きていけるように」。そんな願いがあるからこそ、同年代の子どもができていることを知ると、自分の子にもできるようになってほしいと思うのでしょう。比較して焦る自分を、責めなくてもよいのです。

子どものための言葉が、重荷になるとき

ただ、その心配が大きくなりすぎると、目の前の子どもではなく、「この年齢なら、これくらいできるはず」という基準ばかりを見るようになってしまいます。

「もう〇年生なんだから」「みんなはできているよ」「それくらい一人でやって」「もっと頑張らないと困るのはあなたよ」。どれも、子どものためを思って出てくる言葉です。

ところが、繰り返し聞いた子どもの心には、「今の自分では足りない」「できない自分は、ママ・パパを困らせる」というメッセージとして残ってしまうことがあります。

できない自分も愛していい、それが自己肯定感の土台に

子育ての中でよく聞く自己肯定感。みなさんは、どのようなものだと思いますか。

自分に自信があること。得意なことがあること。人前で堂々と発表できること。僕ならできる、私は大丈夫と思えること。そのような力も、もちろん大切です。

しかし、自己肯定感とは、何でもできる自分を好きになることだけではありません。

失敗してしまった自分。みんなと同じようにできない自分。すぐに疲れてしまう自分。泣いたり怒ったり、動けなくなったりする自分。そんな自分であっても、「ここにいていい」「助けてもらっていい」「自分には大切にされる価値がある」と感じられること。それが自己肯定感の大切な土台なのです。

何かをできたときに褒めてもらう経験は、子どもの自信につながります。でも、できなかったときや失敗したときに、どのように受け止めてもらったかという経験も、同じくらい大切です。

「できなかったけれど、一緒に考えてもらえた」「みんなに怒ってしまったけれど、見捨てられなかった」「みんなと違っても、味方でいてもらえた」。そうした経験の積み重ねが、「うまくいかないときも、自分は一人ではない」という安心につながっていくのです。

今の姿を否定せず、できる方法を探してみる

ここまで読んで、「でも、本当にこのままでいいの?」「困っていることを、そのままにしてよいということ?」と思われた方もいるでしょう。

「このままで大丈夫」と受け止めることは、困りごとを放置することでも、子どもの成長をあきらめることでもありません。今の姿を否定するところから始めない、ということです。

例えば、身支度に時間がかかる子に「どうして早くできないの」と言う前に、何に困っているのかを一緒に考えてみる。何かをするための順番がわからないのであれば、絵や写真で示す。たくさんの指示を一度に聞くのが難しいのであれば、一つずつ伝える。疲れやすい子には、休憩を挟む。

自分の子を普通に近づけるにはどうしたらよいのかではなく、どんな助けがあれば、この子は力を出せるのだろうかと考えてみるのです。

子どもが変わることだけを求めるのではなく、環境や大人の関わり方を少し変えてみる。すると、「できない」と思っていたことが、方法を変えればできるようになることもあります。

たとえすぐにできなくても、自分に合う方法を一緒に探してくれる人がいるという経験は、子どもの安心になります。

「みんなと同じ」より、「その子らしく」輝く

同じ年齢でも、成長の道筋や早さは一人ひとり違います。早くできるようになることが、そのまま幸せにつながるとは限りません。言葉で表現するのは苦手でも、人の表情をよく見ている子がいます。集団行動には時間がかかっても、好きなことには驚くほど集中できる子がいます。新しい場所に慣れるのはゆっくりでも、一度信頼した人を大切にできる子もいます。

誰かと比べると「できないこと」に見えていたものが、その子自身を丁寧に見つめると、「慎重さ」「感受性」「粘り強さ」として見えてくることがあります。

子ども同士を比べそうになったときは、ほんの少し視点を変えてみてください。

同じ年の子と比べてどうかではなく、半年前の子ども自身と比べてどうか。

何ができないかではなく、何なら安心してできるか。

どうしたらみんなと同じになるかではなく、どんな助けがあれば、その子らしく参加できるか。

大人には小さく見える一歩でも、その子にとっては大きな挑戦かもしれません。昨日は言えなかった「手伝って」が言えた。怒って物を投げる代わりに、その場を離れることができた。初めての場所に入れなくても、入口まで行けた。そんな小さな変化を見つけてもらえると、子どもは自分のことを見てもらえていると感じます。

一人で悩まないで。相談は、子育ての仲間を増やすこと

何度言っても動かない。予定どおりに進まない。きょうだいと同じように関わってもうまくいかない。一般的な育児書の方法を試しても、思いとは反対にこじれてしまう。そんな日々が続くと、「この子は育てにくい」と感じることもあるでしょう。その気持ちを否定する必要はありません。実際に、毎日対応している保護者が疲れ切ってしまうほど、育児に多くの工夫や支えが必要な子もいます。

けれど、「育てにくい子」には、「まだその子に合う方法や環境が見つかっていない」という可能性もあります。その方法は、家族だけで探し続けなくてもよいのです。園や学校の先生、スクールカウンセラー、医療・福祉の専門員、地域の相談機関など、子どもを一緒に見てくれる人を頼ってください。

相談することは、「この子に問題があります」と認めることではありません。わが子のことをもっと知りたい、わが子に合う方法を一緒に考えてほしいと、仲間を増やすことです。予定どおりにいかない日があっても、周りよりゆっくりに見えても、その子の成長が止まっているわけではありません。

「今のあなたではだめ」ではなく、「今のあなたから、一緒に考えよう」。

子どもだけでなく、毎日悩みながら子育てをしているママ・パパ自身にも、そう声をかけてあげてください。誰かと比べて完璧な親にならなくても大丈夫。目の前のわが子を知ろうと迷い、考え続けていること自体が、十分に深い愛情なのです。