この連載では、地域で子どもの居場所づくりや相談活動を行う専門家が、子育ての悩みや毎日の生活の中で「知っておくと安心できること」「今だからこそ大切にしてほしいこと」などを分かりやすくお届けします。
今回は、感覚過敏の特性と親子の向き合い方についてお届けします。
日常の「なんで?」の裏側にある子どもの世界を知ることで、張り詰めたママやパパの心が少しでも軽くなることを願っています。

一般社団法人Ponteとやま 理事長 水野 カオル
1964年生まれ。Ponteとやま代表理事。公認心理師・臨床発達心理士。金沢大学卒業後、21年間公立学校教諭(ろう学校・養護学校・小学校)として勤務。その後、富山大学学生支援センターアクセシビリティコミュニケーション支援室コーディネーター、富山県立大学・高岡法科大学相談員(非常勤)を歴任。2014年より現職。県立高校スクールカウンセラー、射水市こども発達相談室相談員(非常勤)。
長年の教育現場とカウンセリングの経験から、不登校や行きしぶりに悩む子どもたちとその家族に寄り添い、多様な学びの場を提供する活動を行っている。
「わがまま」じゃなかったんだ~感覚過敏の子が安心して過ごすために~
「この服イヤ!」「音がうるさい!」「これ食べたくない!」。
そんな子どもの激しい反応に戸惑い、途方に暮れてしまったことはありませんか。
朝の忙しい時間に、「縫い目がチクチクする」と何度も着替えを要求される。スーパーに入れば「おうちに帰る!」とぐずり、人が多い場所で急に機嫌が悪くなってひっくり返る……。お出かけするのも一苦労です。
いつも周囲に気を遣って親の方も日々クタクタになり、「なんてわがままなんだろう」「私の育て方が悪いのかな」と、自分を責めてしまいがちなママやパパは少なくありません。 でも、どうか自分を責めないでください。
子どもの激しい拒絶は、ママやパパを困らせようとするわがままでも、愛情不足のせいでもありません。実は、本人にとって耐えがたい“つらさ”の中にいるサインなのです。
子どもたちの見ている世界にワープして、ちょっと見方を変えてみませんか。
感覚過敏ってなに?

「感覚過敏(かんかくかびん)」という言葉をご存知でしょうか。
これは生まれつき視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感がとても敏感で、周囲の刺激を過剰に受け取ってしまう状態のことです。
発達障害のある子どもによく見られる特性の一つですが、診断の有無に関係なく、この敏感さを持って生きている子はたくさんいます(前回は不登校や登校しぶりの背景として感覚過敏がある可能性も……ということをお伝えしました)。
私たちの脳には、五感から入る膨大な情報から必要なものだけを選び、残りをシャットアウトする「自動フィルター」のような機能があります。
しかし、感覚過敏のある子は、このフィルターがうまく機能せず、刺激のボリュームが常に最大の状態にあります。
彼らにとっての毎日は、私たちが想像する以上にたくさんの刺激がダイレクトに、かつ一斉に押し寄せてくる激しい世界なのです。
学校や園は「刺激の嵐」が吹き荒れる場所

多くの子どもたちが何気なく過ごしているように見える学校や園。しかし感覚過敏のある子どもにとっては、一歩足を踏み入れた瞬間からエネルギーを消耗してしまう場所です。
大音量が鳴り響く中にいる「聴覚の過敏さ」
チャイムの音、休み時間のざわざわとした声、机を引きずる音。
これらすべての音が同じ大きさで耳に飛び込んできたらどうでしょうか。
まるで、テレビとラジオと掃除機をすべて最大音量で同時につけっぱなしにしている部屋にいるような状態です。
これでは脳が疲れ切ってしまい、先生の指示が聞き取れなくなったり、フリーズしたりするのも無理はありません。
話を聞いていないように見える行動の背景には、「脳がいっぱいいっぱい」という限界の状態が隠れているのです。
ヤスリでこすられているような「触覚の過敏さ」
触感覚が敏感な子にとって、衣服は時に不快なものです。
服の裏側のタグがチクチクして耐えられない。靴下の縫い目が触れて痛い。少し服が濡れただけでも気持ちが悪い。
ママやパパから見れば小さなことでも、本人にとっては「ずっと靴の中に小石が入っている」「常にヤスリで皮膚をこすられている」ような感覚なのかもしれません。
匂いの洪水が押し寄せる「嗅覚・味覚の過敏さ」
楽しいはずの給食の時間が苦痛になる子もいます。
カレーのスパイス、牛乳の匂い、魚の生臭さ。私たちには「美味しそうな匂い」も、その子には強烈なガスのように感じられ、気持ち悪くなってしまうことがあります。
偏食が多いとされる背景にも、こうした匂いや独特な食感への恐怖心が隠れていることが多いのです。
他にも蛍光灯の光が眩しすぎるなど、子どもたちは一日中、過酷な環境の中で頑張っています。
そのため、自宅に帰ってきた途端にぐったりしたり、激しいかんしゃくを起こしたりするのも当然です。
自宅で気持ちがあふれ出てしまうのは、そこが世界中で一番「安心できる場所」であり、ママやパパが「ありのままを受け止めてくれる大好きな人」だからであり、甘えられている証拠なのです。
「困った子」ではなく「困っている子」

ここで一番大切にしたいのは、彼らは周囲を「困らせようとしている子」なのではなく、彼ら自身が「困っている子」なのだという視点の変換です。
実は、この記事を書いている私自身も、幼い頃から音や光、匂いや肌に触れる感覚にとても敏感で、大人になった今に至るまでかなり苦労をしてきました。
映画館や遊園地、ショッピングセンターなど多くの人が楽しみに出かけるところは疲れる、魚は食べたいけれど魚屋さんの匂いは苦手、雨の日のバスや締め切った部屋の中にいると気持ちが悪くなる……。
当時は家族からもわがままや神経質と言われ悲しい思いをしていました。
言葉が未発達な子どもたちは、「音が大きくて耳が痛い」「洋服がチクチクして苦しい」などと自分の状態を言葉で説明することができません。
泣く、暴れる、逃げ出すといった不機嫌のサインでしかSOSを出せないのです。
そんなとき、「なんでそんなにわがまま言うの!」と叱りつけてしまうと、子どもは「自分の感じ方はおかしいんだ」と自信を失ってしまいます。
「なんでできないの!」と思ったときは、一呼吸置いて「何がこの子を苦しめているのかな?」と、本人が感じている世界を想像してみませんか。
環境を整えるお助けアイデア

感覚過敏そのものを急にゼロにすることはできませんが、刺激を減らす工夫をすることで、子どもたちの生きづらさはかなり軽減します。
・【触覚】タグカットや裏返しで着用する
服のタグはギリギリまで切り落とすか、タグのない衣類を選びます。家の中であれば、下着や靴下をあえて裏返し(縫い目が外側になるよう)に履くだけでも楽になります。肌触りの良い綿100%や、縫い目のない仕様の衣類もおすすめです。
・【聴覚】イヤーマフを着用する、避難スペースを設ける
ざわざわした環境や大きな音が苦手な子どもは、子ども用のイヤーマフ(防音ヘッドホン)を着用することで穏やかに過ごせるようになります。また、部屋の隅に小さなテントや段ボールハウスを置き、静かでうす暗いスペースを作ってみましょう。脳が疲れたときにのクールダウンできる場所になります。
・【味覚・嗅覚】無理強いはしない
苦手な食べ物の匂いや食感は、ただの好き嫌いやわがままではありません。「一口食べなさい」と強制せず「同じ食卓に笑顔で座れたら100点!」とハードルを下げ、楽しい雰囲気を優先しましょう。
まずは、環境を子どもに合わせることが大切であり、必要な回り道なのです。
子どもの脳と心をときほぐす遊び
幼児期の日常的な遊びは、子どもの感覚を育て、脳の発達を促します。人間の体には、五感のほかにも、「自分の体の位置を感じる感覚」や「揺れやバランスを感じる感覚」がありますが、感覚過敏の子は、これらの感覚のバランスが少し不安定なことが多く、そのために不安や過敏さを強めていることがあります。
例えば、次のような遊びに親子で楽しくチャレンジしてみることで子どもの感覚も少しずつ育っていきます。
・ゆらゆら・ぐるぐる遊び(バランスを育てる)
公園のブランコや滑り台、パパやママの膝の上でゆらゆら揺られたりする遊びは、脳のバランスセンサーを心地よく刺激し、自律神経を整えてくれます。
・ぎゅっと抱っこ(包まれて自分を知る)
布団や大きめのバスタオルで子どもをくるくると包んであげたり、ぎゅーっと強めに抱っこすることで、子どもは「ここに自分の存在があるんだ」と自分の体を知ることができます。また、適度な圧がかかることで「守られているんだ」という安心感が生まれ、リラックスできます。
・いろいろな感触に出合う(ワクワク感を育む)
砂、泥、粘土、水遊びなど、手や足全体で様々な感触を楽しむ経験は、触覚の過敏さをゆっくりほぐします。ただし、無理強いは逆効果です。「見てるだけでもOK」と、子どもが安心できる範囲から、少しずつ進めていきましょう。子どもは、「楽しい!」「やってみたい!」というワクワク感の中でこそ育っていきます。
一人で抱え込まないで

感覚過敏は、捉え方によっては生きづらさになってしまうかもしれませんが、裏を返せば、「他の人が気づかない微細な美しさに気づける」「人の心の痛みに敏感に寄り添える」など、豊かな感性や優しさでもあるのです。
子どもたちは、自分を取り巻く世界が安全であると確信できたとき、本来持っている力をのびのびと発揮し始めます。
子どもが何かを強く嫌がったときは、わがままと決めつける前に、ほんの一瞬だけ「この子には、今どんな世界が見えているんだろう?」と立ち止まってみてください。
子育ては、ママやパパが一人で背負うものではありません。
悩んだときは一人で抱え込まず、園や学校の先生や地域の専門機関、そして私たちのような地域のサポートの場をいつでも頼ってくださいね。
ママやパパを応援し勇気づけてくれる仲間は必ずいます。

