子育て 小学1〜3年 小学4〜6年

【第1回】発達の専門家に聞く! 大事な子どもの気持ちの話

この連載では、地域で子どもの居場所づくりや相談活動を行う専門家が、子育ての悩みや毎日の生活の中で「知っておくと安心できること」「今だからこそ大切にしてほしいこと」などを分かりやすくお届けします。

今回は、新年度が始まって1ヵ月が経ち、疲れや行きしぶりが見え始める時期の親子の向き合い方についてお届けします。

「うちの子、最近元気がないかも」と不安を感じている保護者の方の心が、少しでも軽くなることを願っています。

一般社団法人Ponteとやま 理事長 水野 カオル

1964年生まれ。Ponteとやま代表理事。公認心理師・臨床発達心理士。金沢大学卒業後、21年間公立学校教諭(ろう学校・養護学校・小学校)として勤務。その後、富山大学学生支援センターアクセシビリティコミュニケーション支援室コーディネーター、富山県立大学・高岡法科大学相談員(非常勤)を歴任。2014年より現職。県立高校スクールカウンセラー、射水市こども発達相談室相談員(非常勤)。
長年の教育現場とカウンセリングの経験から、不登校や行きしぶりに悩む子どもたちとその家族に寄り添い、多様な学びの場を提供する活動を行っている。

わが子は「ただいま充電中」~“見守る”は子どもを信じること~

新学期が始まって1カ月あまり。
そろそろ新しい環境にも慣れ、クラスメイトと勉強や部活動を頑張り、学校(園)生活を楽しんでいる……はずだったのに、玄関先で立ち止まるわが子の背中を見つめながら、胸がギュっと締め付けられるような朝を迎えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

朝、布団からなかなか出てこない。学校の時間が近づくと昨晩の元気な姿とは別人のように表情が硬い。「お腹が痛い」「頭が重い」と訴えるけれど病院に行っても異状はない。

そんな姿を前にすると、親の心は激しくざわつきます。「クラスで何かあったのかな」「担任の先生と合わないのかな」。あれこれ心配になり、子どもに聞いてみるけれど、子どもは無言だったり泣きだしたりしてよくわからない。

「このまま不登校になったら、この子の将来はどうなるんだろう」と不安が頭の中でぐるぐる回り、「とりあえず行ってみようよ」「行ってみたらきっと楽しいよ」と、無理に背中を押したくなる。

それでも岩のように動かなかったり、中にはどうしようもなくて暴れてしまうわが子。すると、特に母親は「こんなふうになったのは私の育て方が悪かったからだ」と自分を責めてしまいがち。
しまいには夫婦や家族間で言い合いになり、そんな状況が子どもをますます追い詰めてしまうという悪循環にも陥りがちです。

親として焦る気持ちはよくわかりますが……、でもちょっと待って。親の不安が先行しても事態は良い方向へとは向かわないもの。そんなときは、少し見方を変えてみませんか。

わが子が朝起きない(学校に行きたくない)のはなまけやさぼりではなく、「この1ヵ月間を、全力で、あるいは限界を超えて駆け抜けて疲れたから。今はエネルギー切れで充電中なんだ」と。

大人の私たちは、毎年の新年度や年度末の繰り返しに慣れてしまっていますが、子どもにとってのクラス替えや進級、進学は、私たちが想像する以上に人生を揺るがすほどの一大イベントなのです。

ちなみに、私は子どものころから非日常にワクワクするタイプだったため、新学期の変化は嫌ではありませんでした。でも、新しい環境になじもうと心も身体もフル回転しているからか、毎年新学期が始まって1週間ほど過ぎると熱を出していました。
強制的に身体を休めて充電していたのですよね。

みなさんは、子どもの頃はどんなタイプでしたか?

子どもたちにとっての学校

発達に特性があるお子さんや、人一倍感受性の強い「HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」と呼ばれるお子さんにとって、学校という場所は「情報の嵐」の中に身を置くようなものです。

ましてや新年度、新学期は環境(担任、クラスメイト、クラスの場所、学校自体)が大きく変化します。新しい担任の先生の声のトーン、隣の席の子がペンを使う音、廊下のざわめき、座る場所によって見える景色。それらすべてが、彼らの鋭敏なセンサーにひっきりなしに突き刺さります。
さらに、目に見えない対人関係のルールを読み解くことに必死にならなくてはなりません。

「ここではどう振る舞うことが正解なのか」「友達に嫌われないためにはどうすればいいか」と周囲に合わせ、期待に応えようと脳をフル回転させて頑張ることは、ゴールの見えないマラソンをどこまでも走り続けているような状態とも言えるでしょう。

それが、5月になって連休をはさみ、フッと緊張の糸がゆるんだ瞬間、溜まりに溜まった疲れが一気に噴き出してくるのは、人間としてある意味正常な反応です。
決してお子さんが弱くなったわけではなく、走り続けて空っぽになった心と身体のバッテリーを充電するために、脳が強制終了をかけている状態なのです。

世間では、「一度休ませると癖になる」「今、嫌なことを避けていると社会に出られなくなる」といった厳しい声が聞こえてくることがあります。でも本当にそうでしょうか。

そういう人は、そんな人を見たことがあるのでしょうか。私は、むしろ逆だと思っています。

「行きたくない」と言い出せず、頭痛や腹痛といった身体症状としてのサインが出てしまうのも、玄関先で石のように動けなくなってしまうのも、身体と心が「これ以上は無理だ」と悲鳴を上げているのです。これは、命を守るためのSOSです。

ここで「根性」や「気持ちの問題」として片づけ、無理を重ねさせてしまうと、子どもの心はさらに深く孤立し、自分自身を責めるようにもなってしまいます。
心も身体もぎりぎりの状態で頑張り続け、中には、精神疾患や病気を発症してしまった人たちにもたくさん出会ってきました。

まずは一緒に食べることから

まずは「がんばったね」「しんどいんだね」と、目の前の状態を丸ごと受けとめてあげること。そして、原因を追究しないこと。

子ども自身も「なぜ(学校に行けない)か」を言葉にできないことがほとんどです。
漠然とした不安、説明できない疲労感。それらを論理的に説明しろと言われること自体が、疲弊した脳にとっては大きな負担になってしまいます。

また、少しでも子どもが前向きになるように、自信を取り戻すようにと思って言葉で説得しようとするのも逆効果です。
往々にして「理屈 vs 感情」のぶつかり合いになってしまい、子どもたちはますます「大人はわかってくれない」気持ちになっていきます。

そんなときは何もせず、まずは「おいしいもの(好きなもの)を食べる」ことをお勧めします。

「学校に行くか行かないか」「これからどうするか」ということはいったん横に置いて、ただ一緒に美味しいものを食べる。
あるいは、犬や猫などの動物がいれば、その温かさに触れる。

こうした「理屈抜きの安心感」こそが、どんな薬よりも心を回復させてくれるのです。

「でも……それはいつまで続ければいいの?」という声も聞こえてきそうですね。エンプティになってしまった時の充電期間は、お子さんやそれぞれの状態によって様々で、例えばおよそ1ヵ月というような目安はないのです。

高速充電する子もいれば、時間をかけてフル充電する子もいます。充電が終わっても、しばらくは安全基地にいたいと思う子もいます。
「本当に大丈夫?」と、ますます心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫。

充電期間を経た子どもたちは必ず元気を取り戻し、自分がどうしたいかを考え、選択し、実行できるようになっていきます。

Ponteとやまでは「フリースタイルスクール(フリスタ)」という、学校に行かない選択をした子どもたちの居場所も運営しています(長期休み期間中は普段は学校に行っている子も来ています)。ひたすらゲームをしている子、穴を掘り続ける子、絵を描いている子……。フリスタにはカリキュラムもプログラムもなく、その日何をするかしないかは自分で決めます。

昼が近づくと「おなかぺこぺこ! 今日のごはん何~?」と台所に聞きに来る子もいます。
その日食べたいものを好きなだけ食べて、午後からまた外で思いっきり遊んだり、仲間を誘ってゲームバトルしたり。そんな日常を繰り返す中で子どもたちは元気と意欲を取り戻していきます。

この春、高校進学した子たちは「また来るね~」と言っていたけど来ていません。きっと高校生活を満喫しているのでしょう。「中学校に行ったら週に3回は学校に行ってみる」と決めて残りの日に来ている子もいます。

育て方のせいじゃない

不登校や行きしぶりが始まると、まるで一本道から外れ、暗い森に迷い込んでしまったような絶望感を抱くかもしれません。
でも、現代の日本においては「学校が教育のすべて」という時代は、すでに終わろうとしています。

フリースクール、オンラインでの学習支援、地域のコミュニティ、AIやICTを活用した学び。

学校という既存の枠組みに、たまたまその時期の心身の波が合わなかっただけで、学びを止める必要はないのです。
「いざとなったら、あそこがある」「学校以外の場所でも、この子は育っていける」。そう思える選択肢を持っているだけで、家庭内の空気も変わります。

最後に

最後に、ここまで読んでくださったあなたへ。

お子さんが「学校にいきたくない」「友達に会いたくない」と言ったとき、つらくて孤独な闘いをしているのは、子どもの一番身近にいる家族です。

ネットで情報を探し回り、過去の自分の関わり方を振り返っては自分を責め、仕事との板挟みに悩み、誰にも言えない不安に押しつぶされそうになる。でもどうか「私の育て方が悪かったのかな」なんて、思わないでください。

お子さんが今、あなたにサインを出せているのは、「どんな自分でも見捨てられない」と親を信じているからです。だから、あなたも、今の子どもの姿を受けとめて、しばらくは見守ってみてください。

見守ることは子どもを信じることです。

そして、時には「今日はもういいや」と家事を放り出し、一人の人間として自分の時間を楽しむことを優先してみてください。
「そんな余裕はない……」と思う方は、好きなドリンクを入れてほっと一息つくだけでもいいですから、自分の時間を過ごしてみてほしいなと思います。

そして、家族だけでなんとかしようとせず、学校の先生やスクールカウンセラー、そして私たちのような地域の専門家のことを頼ってみてほしいなとも思います。

「もう限界です」「助けて」とSOSを出してください。
大丈夫。あなたは一人ではありません。